コベルコ科研・技術ノート
こべるにくす
Vol.33
No.60
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Introduction
次世代環境対応車市場とその技術動向
当社では、ベンチマーク・試験・評価等を通じて自動車関連各社の研究開発をサポートしてきた。一方で世界で合計368億トン/年1)、日本の総排出量は約10億トン/年、うち運輸部門が約1.9億トン/年もあるCO2排出抑制が喫緊の課題である2)。このため自動車産業は環境配慮型車両の開発と普及に注力しており、技術の大きな変革期にある。本稿では、環境対応車の市場動向と技術動向を概観し、その中で自動車業界の研究開発に貢献する、コベルコ科研のトータルサポート体制について解説する。
1 環境対応車の市場動向
世界、日本のパワートレイン別の構成比率変化を第1図に示す。EV普及ペースは一時よりも鈍化しているがHEVとPHVの比率が足元で拡大している。いずれにせよ2030年までに、従来のICE(Internal Combustion Engine)車の50%以上が環境対応車になると予測されている。
地域別にみると次の特徴がある3)。
北米: | 連邦政府は2030年までに新車販売の50%以上を電動車とする目標を掲げ、カリフォルニア州では2035年以降のICE車販売を禁止するなど、環境保全と産業育成を両立する政策が推進されている。 |
中国: | 2035年までに新車販売の50%以上をNEV(New Energy Vehicle)にする目標を掲げており、BYDや吉利が市場をけん引している。 |
欧州: | Euro7での排出量規制に加えて、2035年までにエンジン車の新車販売を禁止する厳格な方針を掲げている。欧州ELV指令により車両への有害物質の使用制限や、廃自動車のリサイクルを推進している点も特筆される。 |
日本: | 政府は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指しており、これに向けた燃費基準の強化や、EVやHVの普及促進策が取られている。 |
第1図 各パワートレインの構成比率予測4)

2 主要プレイヤーの技術動向
EVをはじめとする環境対応車には、従来のICE車の車づくりの概念を塗り替える新技術が数多く搭載されている。ここでは業界全体に技術的な新たな基準を設定し、多くのメーカーが追従するきっかけとなっているテスラ社の市販モデル(モデルY ギガテキサス製)を当社が解体調査した結果を元に、技術動向を紹介する。
ボディー構造: | フロントおよびリアサイドに大型ダイキャスト部品を採用し、部品点数を大幅に削減している。車体剛性の向上と軽量化を実現しながら、コストダウン効果も大きく、自動車メーカー各社は追随しようとして研究開発が盛んにおこなわれている。そのほかの構成部品もモノマテリアル化されているものが多く、リサイクル性向上手段の一つの流れを示している。 |
電池パック: | テスラ社は円筒型電池セルを使用することが特徴であり、汎用の18650型リチウムイオン電池をはじめて搭載している。その後、21700型、4680型と電池セルをサイズアップし高容量化し、これらがモデルYに搭載されている。高容量化により搭載される電池セル数が少なくなり、部品点数が削減さている。また、電池セルが集まって構成させる電池モジュールも大型化・長尺化しており、モデルSの16直列から、モデル3、モデルYでは4直列となり、部品点数削減による生産性の向上、コストダウンに寄与していると考えられる。 |
インバーター: | テスラが量産車に初めて採用したSiCパワー半導体モジュールを採用している。従来のSiデバイスに比べ、高いエネルギー効率、加速性能、システム全体の軽量化を達成し、量販車への採用による大量生産により部品価格を下げることで、業界全体での普及を促進した。またインバーターをモーター+減速機と一体化したE-AXEL構造となっており、コンパクトな駆動ユニットとして各社で開発、採用が進んでいる。 |
熱マネージメント: | 上記の電池パックの加温・冷却やインバーターの冷却をはじめ、温度管理が必要な部品の熱を集中して管理する、オクトバルブというヒートポンプが導入されている。車内の熱を一元管理することで、EVの航続距離向上と効率的なエネルギー利用が可能となった。また組み込まれた制御ソフトは逐次無線通信で更新され、車両のライフサイクル全体で付加価値が向上するという新しい価値観を設定した。 |
第2図 テスラモデルY パフォーマンスロングレンジAWD(ギガテキサス製)

3 環境対応車を支えるコベルコ科研のトータルサポート体制
当社では上記の市場と技術の動向を踏まえて、環境に配慮した車の進化を支援するため、材料から部品モジュール、実車までの各レベルにわたり、「分析」、「計測」、「試験・実験」、「計算・解析」などの評価技術を向上させている。さらに、これらの技術を組み合わせた総合的なサービスである「トータルソリューション」を提供することで、以下の通りお客様をより深くサポートすることを目標としている。
サステナブルマテリアル: | 次世代環境車には、資源の循環を考えたサステナブルマテリアルや易解体性を考慮した接合技術が重要である。当社では、市中廃材を再生材として活用する溶解試作から始め、先進車体構造に使用される各種材料の組成・組織・構造を解析し、接合の評価や物性値の取得、腐食事故調査、防食コンサルティングまで幅広く基礎材料の評価に対応している。 |
部品モジュール: | 設計構想の後、部品やモジュールレベルでの設計品質向上や原価低減を目指して試作評価が行われる。当社では、実車に近い状態で試験対象物の評価を行うための方案を提案し、必要な冶具設計も行っている。静的や動的な評価試験では、最大3MNの高荷重や特殊環境下での耐久試験も可能である。また、モーターに使用されるギアの回転系評価に関しては、独自の設備開発から熱や振動解析モデルの構築までトータルでサポートしている。 |
先進パワートレイン: | 環境に配慮した車の動力源はさまざまな形態が提案されており、各地域の特性に合わせた複数の選択肢が検討されている。当社では、パワートレインを構成する各種二次電池の特性評価や安全性、パワーデバイスやリレー回路の高電圧耐性、FCセルの特性評価のみならず、水素や次世代燃料適用時のエンジン部材の長期耐久性評価も実施している。 |
先進車体構造: | 自動車産業において、部品点数の削減や軽量化だけでなく、剛性の向上や リサイクル性の観点から、アルミの一体成型を採用した車台の開発が進んでいる。当社では、長年にわたる非鉄金属評価の知見を活かし、アルミ鋳造品の湯流れ・凝固解析の精度向上のために必要な物性値評価技術を開発し、お客様のサポートをしている。 さらに、バリア衝突試験をもちいた設計検証、シャシダイナモを活用した実車レベルでの車両性能評価やCAN解析にも幅広く対応し、開発を支援している。 |
第3図 環境対応車を支えるコベルコ科研のトータルサポート体制

カーボンニュートラルの実現は、地球規模での持続可能な社会を築くための重要な課題であり、環境対応車の開発が進められている。今号では、これに関連した当社の最新の技術開発成果を紹介している。これらの当社技術は、精度とスピードの両立が求められる開発現場での課題解決を支援し、次世代の環境対応車の開発を加速させることを目指している。
参考文献
- *1) IEA CO2 Emissions in 2022 P3
- *2) 国土交通省HP 環境トップ:運輸部門における二酸化炭素排出量から
- *3) MarkLines法規制情報/環境規制(排ガス・燃費等)/燃費規制(排ガス/燃費規制/CO2など)各国の規制情報から
- *4) デトロイト トーマツ コンサルティング合同会社作成データより