コベルコ科研・技術ノート
こべるにくす
Vol.33
No.61
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# こべるにくす
太陽と海の恵みと、人類の未来
この原稿を書いている今日は9月15日、気象学の定義ではすでに秋ですが、連日うだるような暑さが続いています。読者の皆さんもここ最近、年を追うごとに夏の暑さが厳しくなっているとお感じのことでしょう。
温暖化の主要因は二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加とされていますが、都市部では気温が郊外よりも高くなる「ヒートアイランド現象」がこれに拍車をかけています。コンクリートやアスファルトが昼間の太陽熱を蓄積し、夜間に放熱し続けることに加え、生活に欠かせないエアコンが室内の気温を下げる代わりに、大量の排熱を屋外に放出していることが大きな要因です。
さらに近年、注目されるのがコンピュータのデータセンターからの排熱です。デジタル化の進展に伴い世界のデータセンターの消費電力は急激に増加、国際エネルギー機関の推計では、2022年時点で全世界の電力消費の約1.3%を占めています。データセンターでは半導体チップの発熱を抑えるため大量の冷却システムが稼働し、その排熱が都市部の気温上昇に寄与している現実もあります。AI利用の爆発的増加で、さらに電力量と排熱量が上昇することは確実です。
人間の活動が地球を温め続ける一方、地球上には天然の「冷却システム」が存在します。その最大の役割を担うのが「海洋」です。海洋は大気中の人為起源の二酸化炭素の約30%を吸収し、海中に固定することで大気中の成分を安定させてきました。しかし近年では、温暖化による海水温上昇により、この吸収能力の低下が懸念されています。さらに深刻なのは光合成によって酸素を供給し、二酸化炭素を固定する海藻類の世界的な減少です。特に沿岸域のコンブやワカメなどの大型海藻の藻場が消失する「磯焼け」現象が世界各地で報告されており、海洋生態系の基盤が脅かされています。
こうした状況の中で、本号で紹介される太陽光発電や電力使用を削減する新半導体技術の意義は一層重要性を増しています。NASAや国際エネルギー機関のデータから、太陽から地球に1時間に降り注ぐエネルギーと、人類が1年間に消費するエネルギーの量はほぼ一緒であることがわかっています。つまり太陽光を十分に活用できる技術が確立できれば、地球温暖化やエネルギーの問題は、解決できてしまう可能性があるのです。
そもそも地球上のほぼすべての生命体のエネルギー源も、最終的には太陽光にたどり着きます。植物や藻類が行う光合成は、太陽光を化学エネルギーに変換する生物学的な「太陽光発電」とも言える仕組みであり、化石燃料でさえ太古の昔に原始藻類の光合成によって蓄積された太陽エネルギーの化石化したものです。
一方、もしこのまま地球温暖化が進行し続けるなら、気候変動による異常気象の頻発、海面上昇による沿岸部への影響、生態系の破綻による食料危機が現実のものとなる可能性があります。実際ここ最近、日本では野菜や米などの生鮮食品類の値上げが続いています。これは単なる経済要因だけでなく、記録的猛暑、予測困難な豪雨、長期間の干ばつなど、従来の農業サイクルでは対応しきれない異常気象の常態化が原因で起きています。
さらに憂慮すべきは、気候変動が戦争をも引き起こすという現実です。水資源の枯渇や農地の砂漠化は、大規模な人口移動を引き起こし、資源をめぐる国際的な緊張を高めています。ロシアとウクライナの戦争、イスラエルによるガザへの攻撃を筆頭に世界で軍事的衝突が激化していますが、多くの紛争の背景にはエネルギーや資源の争奪戦があり、気候変動がもたらす環境ストレスが国際情勢の不安定化に拍車をかけていることは否定できません。
地球温暖化がもたらすマイナスの現象が誰の目にも明らかになってきた今だからこそ、地球に膨大なエネルギーを送り続けている太陽と、大気の巨大な循環を支えている海洋の力を、人類は再認識すべきではないでしょうか。太陽と海の自然の恵みを最大限に活用し、調和を保ちながら発展していけるかどうかが、人類の運命の分水嶺となるはずです。
