第一原理計算を用いた有機SEIの輸送特性計算
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- リチウムイオン電池の輸送特性シミュレーション
第一原理計算を用いた有機SEIの輸送特性計算 -
Solid Electrolyte Interphase (SEI)は電極表面での反応生成物として知られており、具体的にはLiF、Li2O及びLi2CO3等の 無機物に加えて有機物の存在も知られている。有機物SEIを電解質の溶媒分子が開環重合した高分子に近い化合物として考え、電子輸送による電気伝導特性を算出した。
対象分子はEthylene Carbonate(EV)とVinyl Carbonate(VC)とした。
温度300Kで溶媒分子10個を、密度2gcm-3のシミュレーションセルに分散させ、第一原理分子動力学(First Principles Molecular Dynamics : FPMD)を用い2psかけて開環重合させた。次にこれらのモデルを使い、非平衡グリーン関数計算により電子伝導特性を計算した。
その結果、溶媒が重合して得られる有機SEIは、原料溶媒と同レベルの電気伝導度を有するという結果が得られた。
特に、二重結合を有するVC由来のSEIで優れた電気伝導性が確認された。
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全状態密度
伝導帯の電子状態を調べるために全状態密度を求めた。
最高占有軌道(HOMO)準位を0eVとしたとき、EC由来重合体は3eV以上の領域でConduction Bandが得られるのに対し、π結合を含むVC重合体では2eV程度と低いという結果となった。-
局所構造
二体相関関数g(r)により不定形モデルの局所構造が把握できる。
ここではC-C原子間距離を示した。s結合が支配的なEC重合体と異なり、VC重合体は0.135nm近傍にピークを持つ二重結合成分を含むことを示している。-
非公衝グリーン関数
量子力学に基いて電子伝導特性を議論する際、ポアソン方程式と輸送方程式を自己無撞着に解き、ケミカルポテンシャル(バイアスを印加させるのと同じ操作)を変化させる事でバリスティック伝導特性を評価する事が多い。
ここではFPMDで求めたモデルを使い非平衡グリーン関数法により電子伝導特性を見積もった。
横軸と縦軸は印加電圧と単位面積あたりの電流量にそれぞれ対応する。
Conduction Bandが占有する2eVを超えるとπ*結合を含むVC重合体のカレント密度が高く推移した。-
VC重合体の最低非占有軌道
伝導電子は伝導帯を経由して系を運動する。
モデルは2ps経過させたVC重合体であり、実線は周期境界条件である。
図中円で示された分子軌道はπ*軌道に対応し、この経路を用いて伝導電子が運動する。 -
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