コベルコ科研・技術ノート
こべるにくす
Vol.32
No.59
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新技術・新製品のご紹介
新技術
第一原理計算による物性値の網羅的取得
❶ 概要
技術本部 計算科学センターでは、第一原理計算と深層学習技術を組み合わせた材料探索用データベース構築サービスを新たに開発しました。このサービスは、計算物理学と機械学習を融合させることで、高精度な材料特性予測と効率的な材料探索を可能にします。構築されたデータベースは、膨大な組成の材料に対する特性予測を行い、革新的な材料開発を支援します。
❷ 技術の特徴
第一原理計算は、物質の電子構造を基にして材料の物性を高精度に予測する手法です。本サービスでは、最新の計算技術を駆使し、幅広い材料特性の解析を行います。深層学習をもちいて、第一原理計算データから材料特性を学習し、未知の組成に対する特性予測を迅速かつ高精度に行います。これにより、従来の手法では困難だった広範な組成空間の探索が可能となります。また、計算結果を基に広範な材料データベースを構築し、利用者が計算範囲内で任意の条件の物性値を取得することが可能となります。これにより、材料開発のスピードと精度が飛躍的に向上します。
❸ 事例紹介
本事例紹介1)ではFe-Co-Ni合金の磁化の温度依存性を取り扱います。Fe-Co-Ni合金は、優れた磁気特性や高い耐熱性を持ち、航空宇宙、電気・電子機器、高温環境、磁気記録媒体等で幅広く使用されています。事例紹介にあたって計算手法の紹介を行います。本事例ではコヒーレントポテンシャル近似(CPA)2)と呼ばれる手法をもちいて、Fe-Co-Ni合金の電子構造を詳細に解析しました。これにより、合金の相安定性と磁気特性の温度依存性を高精度に予測することができました。特に、面心立方構造(FCC)および体心立方構造(BCC)の相安定性を反映させることで、より現実的な予測が可能となりました。さらに、深層学習モデルを構築し、第一原理計算から得られたデータを基に学習させました。このモデルは、未知の組成に対する特性予測を行うために使用され、多様な組成パターンに対する磁気転移温度や温度依存性を含む相安定性について迅速かつ高精度な予測を可能とします。
解析の結果を図1に示します。Feが豊富な組成では高い磁気転移温度を示し、CoとNiの割合を調整することで、特定の応用に適した磁気特性を持つ合金を効率的に探索できることが明らかになりました。また、FCCとBCCの相安定性を考慮することで、低温から高温に至るまでの広範な温度領域における材料特性の見積もりが可能となりました。
図1 Fe-Co-Niにおける磁化マップ:(a)0K, (b)293K, (c)973K, (d)1096K

❹ 今後の展望
本技術は、新規材料の設計と開発において大きな可能性を示しており、材料開発におけるコスト低減への貢献が期待されます。特に実験的アプローチが難しい高温条件での物性同定に有効な手段となります。今後は、電気伝導度、機械特性、化学反応性などに対応を拡大していく予定です。
*2) H. Akai, J. Phys. Soc. Jpn. 51 (1982), 468.