コベルコ科研・技術ノート
こべるにくす
Vol.32
No.59
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技術再発見
今も活躍している当社のロングラン技術や製品をご紹介
クリープき裂進展解析技術
脱炭素気運が地球規模で高まっており、例えば電力供給においては電源構成の見直しが政府主導で進められている。とくに、石炭火力発電所を取り巻く環境は厳しいが、当面は再生可能エネルギーの調整用電源としての役割を果たすと予想されている。火力発電所の基幹設備であるボイラや配管は高温環境にさらされるため、長年にわたり高温機器の損傷や余寿命予測に関する研究が進められてきた。当社はこれら機器の余寿命予測を目的とした高温での疲労試験、クリープ試験および破壊力学試験に多くの実績を有しており(第1図)、これら取得データをもとに弾塑性クリープ解析や破壊力学解析をおこなってきた。また構造解析用計算機の能力増強を進め、実稼働時間オーダーの計算も可能となってきた。そこで本稿では高温環境下におけるクリープ解析事例を紹介し、計算機の処理能力についても従来機と比較した。
第1図 高温環境下における使用機器例と当社の各種対応試験

1. 高温環境下でのクリープ解析事例
解析対象はパイプとフランジの溶接構造体とした。第2図に解析モデルおよび解析条件を示す。フランジ面の変位自由度をすべて拘束し、パイプ端部を平面保持した状態で軸方向に載荷した。ここでは弾塑性クリープ解析をおこない、クリープ挙動は式(1)に示す時間硬化則で再現した。

ここで、σは負荷応力、tは時間、A、n、mは材料パラメータであり、各物性値は当社が保有するステンレスのデータをもちいた。なお、パイプとフランジの間には溶接未溶着部があり、未溶着部先端からき裂が発生・進展する懸念がある。このようなき裂進展を対象とした評価の際には破壊力学的手法を適用し、クリープき裂の進展挙動を特徴付けるCt積分値を算出することも可能である。
第2図 解析モデルおよび解析条件

2. 解析結果
第3図に各代表時間におけるクリープひずみコンターを示す。第3図では0.01%以上のクリープひずみが生じた領域をカラー表示している。クリープひずみは高応力部となる溶接未溶着部先端で大きく、時間の経過とともに溶接金属部で広く分布していくことがわかる。
なお、従来機と新計算機で解析に使用するCPUコア数(4、8、12コア)を変えて解析時間を比較した結果、今回の解析対象はモデル規模が小さいものの、いずれのコア数においても10万時間におよぶ弾塑性クリープ挙動を約1/2の時間(例として、12コアでは従来機1873sec→新計算機819sec)で解析、評価できるようになった。
第3図 代表時間のクリープひずみコンター[mm/mm]

数値解析をもちいた寿命予測は、たとえば既設機器の定期補修計画策定に有用である。今後も、脱炭素化のニーズに応えるため、高温アンモニア環境でのモデリングや検証といった技術開発を継続していく。