コベルコ科研・技術ノート
こべるにくす
Vol.33
No.61
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ここにも科学No.23
紅葉
色の変化はなぜ起こる?
「紅葉」に潜むサイエンス
秋になると山々や街路樹が赤、黄、オレンジに色づき、その美しい風景が私たちの目を楽しませてくれる。日本人の原風景の1つともいえるこの紅葉だが、「なぜ葉の色が変わるのか」という問いに、正確に答えられる人は少ないはずだ。実はこの時期、落葉樹の葉の内部では、ある化学的な変化が起こっている。
光合成を中心とした植物生理学の専門家である、早稲田大学教育学部・園池公毅教授は次のように語る。「色の変化を引き起こす要因の1つが、葉緑体にあるクロロフィルという色素です。葉が緑に見えるのは、この色素が赤・青の光を吸収し、緑の光を多く反射するから。そして葉の寿命が近づく秋頃に、このクロロフィルが分解され始めることが判明しています」。それと入れ替わるように葉の表皮細胞を中心に増えるのが、アントシアニンという赤い色素だという。クロロフィルが減少し、アントシアニンが増加することで葉が赤く「色づく」ように見えるのだ。一方、イチョウのように黄に紅葉する植物もある。これは葉緑体に常在するカロテノイドという黄色い色素の働きによるもので、クロロフィルの分解によりカロテノイドの色合いが際立つという理屈である。
では、なぜ植物はこうした色の変化を起こすのだろうか。実は、その理由についてはまだはっきりと分かっていない。「紅葉が季節限定の現象であることから研究には特有の難しさがあり、未解明な点も多いのが現状です。しかし、有力説の1つに『アントシアニンがサングラスの役割を果たしている』というものがあります」。
かつて理科の授業で学んだように、光合成によるエネルギー獲得は植物の生存に不可欠だ。しかし同時に、過剰なエネルギーは有害な活性酸素の発生にも繋がるという。「光合成ができなくなる冬を前に、植物は光合成に利用していた養分を葉から回収、リサイクルします。ただその途中段階の葉緑体は不安定で、光が当たると活性酸素が発生してしまうのです。これを避けるために、表皮細胞内のアントシアニンが余分な光を反射・吸収し、不都合な反応が起こらないようにしている――この『サングラス説』が紅葉の役割として現在主流となっている考え方です」
このように私たちにごく身近な紅葉という現象を1つとっても、背後には複雑な生理反応と、したたかな生存戦略が隠されているようだ。「足がある私たち人間とは違い、植物は動けません。だからこそ長い年月をかけてその環境に適応し、自らの構造や機能を変えながら生き延びてきたのです」(園池教授)。たとえば、シベリアの寒冷地に生きる木々は体温を調節する機能を持たないが、その代わりに細胞液の中に"天然の不凍液"のような成分を蓄えることで、極寒の環境に耐える術を獲得したという例もある。
こうした観点に立てば、植物の営み一つひとつは、太古の昔からの試行錯誤の積み重ねによって編み出された「知恵の結晶」だと言えるだろう。私たち人類もまた、身近な植物への好奇心を起点に、新しい環境への適応の仕方、エネルギーの効率的な使い方など、まだまだ多くのことを学べるはずだ。色づいた紅葉を見上げてふと「なぜ?」と感じたその瞬間、すでに科学への新しい扉は開かれているのかもしれない。
色の変化から見るビヨウヤナギの紅葉と光合成
教授 園池 公毅先生
