コベルコ科研・技術ノート

こべるにくす

Vol.34

No.62

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  4. 1D-3D連成手法による均熱炉の水素燃焼評価と均熱性検討

Technical
Report
E

1D-3D連成手法による
均熱炉の水素燃焼評価と均熱性検討

近年、カーボンニュートラルに向けた国際的な機運が高まり、産業分野、とりわけ高温加熱プロセスでは CO2 排出量削減が急務となっている。日本国内でも2050年カーボンニュートラル宣言1)を受け、鉄鋼・機械・材料分野における熱処理プロセスの脱炭素化が重要課題となっている。

均熱炉は、鋼材の加熱・均熱保持・焼鈍処理など幅広い工程で使用される基幹設備であり、運転には大量の都市ガスを要する。高温域で長時間運転される特性上、燃料由来 CO2 排出が不可避であり、設備全体の環境負荷低減が求められている。

このような背景から、都市ガスに代わる燃料として水素の活用が注目されている。水素は燃焼時に CO2 を排出しない利点を有し、実験炉レベルでは専焼・混焼の実証が進んでいる。いっぽうで、水素は都市ガスと比べて燃焼ガス組成・比熱・密度・輻射性など多くの物性が異なり、燃料転換は単なる代替ではなく、炉内温度分布・流れ場・均熱性・燃費にさまざまな影響を及ぼす可能性がある。

しかし、実炉では高温域や炉壁内部の計測が困難であるため、燃料転換に伴う炉内挙動を把握するにはシミュレーション技術の活用が不可欠である。本稿では、1Dの熱収支モデルと3D CFDを組み合わせ、都市ガスから水素への燃料転換に伴う熱流体挙動の変化を総合的に評価できるモデルを提案する。

E-1均熱炉のシミュレーション技術の現状と課題

均熱炉に関する熱流体解析は多くの研究で取り組まれてきた。文献2)では、炉内の循環強化による均熱性改善をCFD(Computational Fluid Dynamics)により解析し、バーナー角度や吸込み位置が温度成層の抑制に寄与することが示されている。また文献3)では、炉壁の熱容量を考慮した過渡解析が均熱炉の昇温特性を正しく評価する上で不可欠であることが示されている。さらに文献4)、5) では、輻射モデルの扱いが温度分布の再現性を左右することを指摘し、CO2 と H2O の吸収係数を適切に扱う必要性が強調されている。

これらの研究は炉内の三次元現象を理解する上で重要な知見を与えているが、いずれも「炉壁を含む全体系の熱収支」と「炉内の空間的な温度ムラ」を同時に扱うことは難しく、解析負荷、モデル化の煩雑さ、境界条件の設定や計算コストといった課題が残っている。とくに燃料転換のように燃焼ガス物性が変化する場合には、炉全体の熱容量と昇温特性を扱うモデルと、炉内温度分布を高い解像度で評価するモデルとを両立させる解析手法が求められる。

そこで筆者らは、計算コストを抑えつつ炉の本質的挙動を捉えるために、炉全体の熱容量と昇温特性を扱う1D 熱収支モデルと、炉内温度分布や流動構造の再現に優れた3D CFDを組み合わせる1D-3D連成手法が有効であると考え、検討を行った。

本手法では、炉全体の時間発展を1D モデルで、炉内の三次元的な温度分布や流動構造を3D CFDでそれぞれ担わせることで、単一スケール解析では見落とされがちな「炉壁の熱容量」と「空間的温度ムラ」を同時に評価することを可能としている。これにより、燃料転換に伴う炉全体の熱収支変化と局所的な温度ムラを、物理的整合性を保ったまま定量的に把握できると考えられる。

E-21D-3D連成を活用した均熱炉の熱流体解析

2.1 1D-3D連成の基本コンセプト

工業炉解析の分野では、炉内の流れ場や温度ムラといった空間分布の評価には3D CFD が有効であるいっぽう、炉全体の昇温過程や燃費評価を CFDのみで逐次的に扱うことは、計算負荷および解析整合性の観点から現実的でないとされている。

Baukalらによる工業炉設計の体系的整理6)においても、CFDは炉内の再循環流れ、局所的な温度分布、壁面熱負荷の評価に用いるべきであり、炉全体の熱収支や昇温挙動については、集中定数的なモデルで扱うことが実務的かつ合理的であるとされている。

この考え方に基づき、本研究では、炉全体の過渡的な熱収支と昇温挙動を 1D 熱収支モデルで表現し、炉内の流れ場、温度ムラ、壁面熱流束といった空間分布を 3D CFD により評価するという役割分担を採用した。

2.2 1D熱収支モデル

1D熱収支モデルは、均熱炉全体の過渡熱挙動を簡潔かつ高い整合性で表現することを目的としている。均熱炉では、燃焼ガス温度・炉内平均温度・炉壁温度が、相互に影響しながら時間発展するため、炉内ガスを制御体積としたエネルギーバランス式により炉内平均温度の時間変化を記述する。

炉内ガスのエネルギー収支は、燃焼ガスからの有効供給熱量、炉壁への熱伝達、排気による顕熱損失を含めて次式で表される。




ここで

mg :炉内ガス質量 [kg]

Cpg :燃焼ガスの比熱 [J/(kg・K)]

Tg :炉内平均温度 [℃]

Qin :バーナーからの有効供給熱量 [W]

Qwall :炉壁への放熱量 [W]

Qexhaust :排気による顕熱損失 [W]


つぎに、炉壁温度の時間変化を求めるため、炉壁を耐火材・断熱材・外板の三層から成る熱回路としてモデル化する。それぞれの層は熱容量Cと熱抵抗Rを有し、炉壁温度の時間応答は次式で記述される。




ここで、

Ci :層i の熱容量 [J/K]

Ri :層i の熱抵抗 [m2・K/W]

Ti :層i の温度 [℃]


ここで得られる炉壁温度は上式の炉壁放熱項Qwallと接続され、炉全体のエネルギーバランスを構成する。炉内ガスと壁面との熱交換は、対流と輻射を併せた平均熱流束として次式で表す。




ここで、

hin :炉内側対流熱伝達率 [W/(m2・K)]

ε :炉壁輻射率 [-]

σ :ステファン・ボルツマン定数 [W/(m2・K4)]

A :伝熱面積 [m2]

Tg :炉内ガス温度 [℃]

Twall :炉壁温度 [℃]


燃焼ガス温度については、化学反応を直接解くのではなく、都市ガス・水素それぞれの総括反応式に基づき、当量比φに応じた断熱火炎温度を与える方法を採用した。これにより、燃焼ガス組成・比熱との整合が保たれつつ、炉内平均温度が目標値に到達するよう、燃焼ガス流量を調整することができる。

1D モデルの主な出力は、(1)目標温度に必要な燃焼ガス温度、(2) 燃焼ガスの質量流量、(3)燃焼ガス組成、(4)炉壁各層の温度、(5) 炉壁の通過熱量、および(6) 炉内平均温度の時間履歴である。これらは3D CFD における境界条件(バーナーポート流入条件、炉壁伝熱条件)として直接利用される。

2.3 3D CFDモデル

3D CFDモデル(以下、3D CFD)は炉内流れ場・温度場・壁面熱流束の空間分布を解析し、温度ムラや成層化の発生メカニズムを評価する役割を担う。とくに、水素燃焼と都市ガス燃焼では密度・比熱・輻射特性が異なるため、両者の差異によって生じる成層化、温度ムラ、壁面熱負荷の偏りを明確に捉えることが3D CFDの重要な目的である。

(1)解析形状および境界条件

図1に均熱炉の解析形状を示す。

解析形状は実炉構造を模擬しており、炉内容積は6.0m×4.5m×4.5mとした。側壁にφ300mmのバーナーポートを配置し、天井と側壁上部には循環ファンの吸込・吹出し口を設けた。さらに排気ポートを設置し、炉内の循環構造と排気による流出入が整合するようにしている。この構成により、燃焼ガス噴流、再循環流、浮力による成層化など、均熱炉で支配的な流動現象を再現可能である。

3D CFDに設定した主な境界条件は、(1)バーナーポート(燃焼ガス流入)、(2)循環ファン、(3)排気ポート、(4)炉壁熱流束の4種類である。バーナーポートには1D熱収支モデルから得られた燃焼ガス温度・質量流量・組成を与え、循環ファンでは炉内流動の主因となる強制循環風量を規定した。排気ポートは大気圧を与え、炉内圧力の整合性と排気流量の自然調整を可能とした。炉壁熱流束は1D熱収支モデルで求めた熱流束を与えた。

これらにより、炉内の空間分布を3D CFDで精密に再現しつつ、炉全体の過渡熱挙動は1Dに委ねるという役割分担を実現している。

図1均熱炉の解析形状

(2)物理モデル

乱流モデルには、浮力の影響が強く現れる水素燃焼ガスの流れ場を適切に再現するため、Realizable k-εモデルに浮力補正を考慮した。これは温度勾配による浮力効果の予測性が高く、炉内の再循環構造の解析に適している。

エネルギー方程式を有効化し、輻射伝熱には DO(Discrete Ordinates)モデルを適用した。均熱炉の運転温度(約 1000℃)では、炉内熱輸送の50〜80%を輻射が占めることが知られており、ガス輻射・壁面輻射の双方を精度よく取り扱うことが不可欠である。DOモデルは、複雑な三次元炉内形状に対して視線追跡を必要とせず、離散化された角度方向へ輻射輸送方程式を解くことで、空間的な温度勾配・成層化・局所的な高温域の検出に優れる特徴を持つ。

さらに本稿では、CO2 とH2O の吸収帯を灰色ガスの重み付き和として扱うWSGGM(Weighted-Sum-of-Gray-Gases Model)と組み合わせることで、ガス組成の違いによる輻射性の変化を高い整合性で再現している。WSGGM が「ガスの分光吸収を近似するモデル」であるのに対し、DO は「炉内における輻射輸送の方向性を計算するモデル」であり、両者は補完的に機能する。

CO2 を含む都市ガス燃焼と、主としてH2O のみとなる水素燃焼では、輻射寄与が大きく異なる。この違いを適切に捉えるには、灰色ガス近似に基づくP-1モデルのような簡易モデルでは精度が不足するため、DO+WSGGMの組み合わせは、高温炉解析における信頼性の高い構成となる。

物性値(比熱・密度・粘性・熱伝導率)は温度依存性を考慮し、都市ガスと水素の燃焼生成物による違いが伝熱挙動に反映されるよう設定した。

2.4 都市ガス・水素燃焼における温度場の比較評価

図2に均熱炉内の流れ場を示す。

両燃料条件において、炉内ではバーナーポートからの燃焼ガス噴流と循環ファンによる強制対流が支配的となり、炉内全体に大規模な再循環流れが形成されていることが確認された。これらの流動構造は燃料種によらず定性的に類似しており、炉内ガスは十分に攪拌された状態にある。

図3~図5に温度偏差コンターを示す。

温度分布の比較にあたっては、燃料種による炉内平均温度の差を除外するため、炉内体積平均温度からの偏差 ∆T=T-Taveを評価指標として用いた。温度偏差コンターを比較した結果、都市ガス燃焼および水素燃焼のいずれにおいても、炉内の温度ムラの分布形状およびその大きさは同程度であり、視覚的に顕著な差は認められなかった。

さらに、炉内体積平均温度および温度偏差の標準偏差を定量的に比較した結果、水素燃焼では炉内平均温度が 1005.3 ℃、温度偏差の標準偏差が 61.55 ℃、メタン燃焼ではそれぞれ 1002.4 ℃、61.30 ℃となり、両燃料条件でほぼ同等の値を示した。いっぽうで、目標とする炉内温度を維持するために必要な燃焼ガス流量には差が生じており、水素燃焼では 0.083 kg/s、メタン燃焼では 0.095 kg/s となった。

この燃焼ガス流量の差は、比熱の大小のみから直感的に予想される傾向とは必ずしも一致しないが、炉内の熱収支の観点からは合理的な結果である。本解析では壁面を同一の熱流束境界条件としているため、炉外へ放散される熱量は燃料種によらずほぼ同一である。このとき、必要燃焼ガス流量は、燃焼ガスが炉内で失う比エンタルピー差、すなわち入口と出口の比エンタルピー差Δhによって決定される。

水素燃焼では、断熱火炎温度が高く燃焼ガスの入口温度が 1732 ℃と高いことに加え、燃焼ガスの比熱もメタン燃焼より大きい。このため、単位質量あたりに炉内へ供給可能な正味熱量が増大し、同一の放熱量を満たすために必要な燃焼ガス流量はメタン燃焼より小さくなった。また、排気の質量流量が両燃料条件で一致しているにもかかわらず、燃焼生成物組成(CO2の有無)の違いにより排気側の比エンタルピーが異なり、結果として排気によるエンタルピー持ち出し量にも差が生じていることが確認された。

以上より、本解析条件においては、燃焼ガス流量に差が生じているにもかかわらず、炉内の温度分布および温度ムラの大きさは水素燃焼とメタン燃焼で同等に維持されていることが示された。これは、本条件下では炉内の強制対流による攪拌が温度分布形成を支配しており、燃料種の違いは主として炉全体の熱収支や必要燃焼条件として現れるためであると考えられる。

図2均熱炉内の流れ場

図4奥行方向中央断面における温度偏差コンター

図3幅方向中央断面における温度偏差コンター

図5高さ方向中央断面における温度偏差コンター

2.5 燃料消費量の違いと燃料コスト評価

本解析条件において同一の炉内温度および均熱性を達成するために必要な燃焼ガス流量は、水素燃焼で 0.083 kg/s、都市ガス燃焼で 0.095 kg/s となった。すなわち、水素燃焼では都市ガス燃焼に対して燃焼ガス流量が約 13% 小さく、燃料消費量の観点で有利であることが確認された。

いっぽうで、燃料転換を実運用の観点から評価する場合には、燃料消費量のみならず燃料単価を考慮した燃料コスト評価が不可欠である。日本政府のロードマップでは2030年の水素単価目標として約 334 円/kg が掲げられており、一般的な工業用都市ガスの供給単価が概ね50円/kg程度であることを踏まえると、両者の間には依然として数倍のコスト差が存在する。

したがって、水素燃焼は燃料消費量の観点では有利であるものの、燃料コストの観点では、水素単価がどの水準まで低減されるかによって評価が大きく左右される。本検討結果は、均熱性や熱流体挙動といった技術的成立性に加え、将来の水素供給コスト低減の見通しを含めた総合的な評価が、水素燃料炉の実用化検討において重要であることを示している。

以上より、今回検討した1D-3D連成解析は、均熱炉における燃料転換の初期検討段階において、炉内熱流体挙動の把握から燃料消費量、さらには燃料コスト評価までを一貫して支援できる実用的な解析手法であり、水素燃料炉の導入可否検討や設計指針の策定に有効であると考えられる。

本検討では、均熱炉を対象として 1D 熱収支モデルと 3D CFD を組み合わせた 1D-3D 連成解析手法を構築し、水素燃焼および都市ガス燃焼に対する炉内熱流体挙動と燃料消費特性の評価を行った。本手法の特徴は、炉全体の昇温挙動や燃費といった時間積分的な特性を 1D モデルで、炉内の流動構造や温度分布といった空間的特性を 3D CFD でそれぞれ扱い、両者を同一の解析枠組みで整合的に評価できる点にある。

本検討を通じて、均熱炉における燃料転換の検討では、炉内の均熱性や温度分布といった空間的評価に加え、昇温工程および熱処理工程を含めた燃料消費量の定量化が重要であることを示した。さらに、得られた燃料消費量に燃料単価を適用することで、燃料種の違いが運転コストに与える影響を、同一の解析条件下で比較可能であることを示した。

今後は、炉構造や運転条件の違い、混焼条件への拡張、ならびに実炉データとの比較検証を通じて本手法の適用範囲を拡大し、脱炭素化に向けた技術検討への活用を進めていく予定である。

参考文献

  1. *1)経済産業省:グリーン成長戦略、2021年6月18日
  2. *2)M. L. Hosain, CFD Modeling of Real Scale Slab Reheating Furnace, Univ. of Pretoria, 2016
  3. *3)S. Strommer et al., A mathematical model of a direct-fired continuous strip annealing furnace, Int. J. Heat Mass Transfer, 69, 375-389 (2014)
  1. *4)W.-H. Park et al., Development of the WSGGM Using a Gray Gas Regrouping Technique for the Radiative Solution within a 3-D Enclosure Filled with Nonuniform Gas Mixtures, JSME International Journal, Ser. B, 48(2), 310-317 (2005)
  2. *5)C. Yin et al., New weighted sum of gray gases model applicable to CFD modeling of oxy-fuel combustion: Derivation, validation and implementation, Energy & Fuels, 24(12), 6275-6282 (2010)
  3. *6)Baukal, C. E. (Ed.), The John Zink Hamworthy Combustion Handbook, CRC Press, 2012.

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