コベルコ科研・技術ノート

こべるにくす

Vol.34

No.62

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  4. 深層学習と第一原理計算によるFe-Co-Ni三元系の磁気特性予測

Technical
Report
C

深層学習と第一原理計算による
Fe-Co-Ni三元系の磁気特性予測

Fe-Co-Ni三元系合金は、優れた軟磁性や高温での安定した磁気特性から、変圧器やモータの鉄心、磁気記録媒体など幅広い産業分野で利用されている。本報告では、第一原理計算手法の一種であるKKR-CPA法1)と深層学習を組み合わせ、Fe-Co-Ni三元系のキュリー温度、相安定性、磁化の系統的な解析を行った結果を紹介する2)

C-1背景

Fe、Co、Niの3種の遷移金属からなるFe-Co-Ni三元系合金は、組成に応じて多様な磁気特性を示す。とくにFe-Co二元系ではFe50Co50付近で磁化が極大となるSlater-Pauling則に従う挙動が知られている。また、Feは体心立方(BCC)構造、Niは面心立方(FCC)構造を安定相とするため、組成によってBCC相とFCC相の安定性が変化する。

従来、Fe-Co-Ni系合金の磁気特性は実験的に研究されてきたが、三元系の広大な組成空間を網羅的に調べることは困難であった。近年、このような課題に対して、第一原理計算とデータ科学を組み合わせたマテリアルズ・インフォマティクスの手法が注目されている。この手法により、理想的な条件下での物性値を系統的に取得できるため、実験結果の解釈や材料探索の指針として有用である。

C-2計算方法

図1に本研究の計算フローを示す。まず、KKR-CPA法により三元系の離散的な組成点に対して第一原理計算を実施した(スクリーニング計算)。組成はFe、Co、Niの各元素について10%刻みで変化させ、三元系全域で66点の計算を行った。各組成点において、FCC構造とBCC構造それぞれについて格子定数の最適化を行い、強磁性状態と局所スピン無秩序状態のエネルギー、および磁化を算出した。さらに計算結果から物性値を予測する深層学習モデルを構築し、三元系全体の磁気特性を俯瞰的に把握することが可能となった。

図1第一原理計算と深層学習を組み合わせた特性予測フロー

電子状態計算にはAkaiKKRコード1)を用いた。KKR-CPA法は、グリーン関数法に基づくKKR法と不規則系の平均場近似であるCPAを組み合わせた手法であり、原子サイトの占有率を連続的なパラメータとして扱えるため、任意の組成比を持つ不規則合金の電子状態を効率的に計算できる。交換相関汎関数にはVosko-Wilk-Nusair(VWN)相関汎関数を採用した。結晶構造としてはFCC構造とBCC構造の両方を考慮し、各組成・各構造に対してBirch-Murnaghan状態方程式(式(1))を用いた格子定数の最適化を行った。




ここに、Bは体積弾性率、B'はその圧力微分、V0は平衡体積、Eは全エネルギーである。

FCC相とBCC相の安定性を評価するため、全エネルギー差と混合エントロピーを考慮したグランドポテンシャルを用いた。温度TにおけるFCC相の占有率pは式(2)で表される。




ここに、kBはボルツマン定数、E0FCCE0BCCはそれぞれFCC相、BCC相の全エネルギーである。

キュリー温度 Tcは分子場近似を用いて算出した。強磁性状態と局所スピン無秩序状態のエネルギー差をΔEとすると、式(3)で求められる。




有限温度における磁化M(T)は、Weissの分子場近似に基づく自己無撞着方程式(式(4))から求めた。




ここに、M0は絶対零度における磁化である。全体の磁化 MTは、FCC相とBCC相の磁化を占有率pで重み付けして式(5)のように求めた。




つぎに、得られた離散的なデータを訓練データとして深層学習モデルを構築した。このモデルはCoとNiの組成比を入力とし、エネルギー差および磁化を出力する回帰モデルである。構築したモデルを用いることで、計算を実施していない組成点の物性値を予測し、組成全域にわたる連続的な特性マップが作成可能となる。

図2に深層学習モデルの構造を示す。CoとNiの組成比を入力とし、エネルギーおよび磁化を出力する回帰モデルを構築した。中間層はSwish活性化関数を用い、8、16、32、64、128ユニットの5層構成とした。訓練データ66点に対するテストデータ15点の決定係数は0.976〜0.999であり、高い予測精度が得られた。

図2エネルギーおよび磁化予測のための深層学習モデル構造

C-3キュリー温度と相安定性

図3にFe-Co-Ni三元系におけるキュリー温度Tcの計算結果を示す。BCC構造(図3(a))では、FeおよびCo濃度が高い領域で最大約1640 KのTcを示した。純Feに対するTcの計算値は約1488 Kであり、実験値(1043 K)と比較するとやや高い値となっている。これは本手法は分子場近似を用いていて、スピンの空間的・時間的な揺らぎを無視していることが原因と考えられる。Fe-Co二元系に沿って組成を変化させると、Coの添加にともないTcが上昇し、Fe50Co50付近で極大を示す。これはCoの添加によりFe格子内の交換相互作用が強化されるためである。いっぽう、Ni濃度が高い領域ではTcが著しく低下し、最小で約62 Kとなる。これはNiの磁気モーメントがFeやCoと比較して小さく、交換相互作用が弱いことに起因する。

FCC構造(図3(b))では、Co濃度が高い領域で最大約1230 KのTcを示す。純Coに近い組成域で高いTcが得られるのは、FCC構造のCoが強い強磁性を示すためである。しかし、Fe濃度が高い領域ではTcが0 Kとなり、磁化を示さない。これはFCC構造のFeが反強磁性的な相互作用を持つためであり、BCC構造とは対照的な挙動を示す。Ni濃度が高い領域ではBCC構造と同様にTcが低下するが、その低下の程度はBCC構造ほど顕著ではない。このように、同じ組成であっても結晶構造によってTcの値が大きく異なることから、相安定性と磁気特性を同時に考慮することの重要性が示唆される。高温環境で使用される軟磁性材料の設計においては、BCC構造が安定でかつ高いTcを示すFe-Co系の組成域が有望であることがわかる。

図3Fe-Co-Ni三元系におけるキュリー温度 Tc のコンター図: (a) BCC構造, (b) FCC構造

図4にFCC相占有率の温度依存性を示す。0 K(図4(a))では、Ni濃度が高い領域ではFCC相が優勢であり、それ以外ではBCCが優勢となっている。いっぽう、Fe濃度が高い領域ではBCC相の占有率が増加し、純Fe近傍ではBCC相が安定となる。これはFeが本質的にBCC構造を好むことを反映している。室温(296 K、図4(b))になると、Fe濃度が高い領域でBCC占有率がやや低下し、FCC相とBCC相の有限温度の効果で境界領域が拡大する。これは温度上昇にともなうエントロピー効果によるものである。973 K(図4(c))ではこの傾向がさらに顕著となり、とくにFe50Co50付近でBCC相の占有率が大きく増加する。この組成域でBCC相が安定化する理由として、Coの添加がFe格子内の交換相互作用を強化し、BCC構造のエネルギーを相対的に低下させることが挙げられる。1096 K(図4(d))では、ほぼ全域でFCC相が優勢となるが、Fe50Co50付近では依然としてBCC相の占有率が高く維持されている。これはこの組成域における構造安定性の特異性を示すものである。以上の結果から、温度上昇にともないFCC/BCC占有率の逆転領域がFe濃度の高い方向へ移動する傾向が確認された。このような相安定性の温度・組成依存性は、高温環境で使用される磁性材料の設計において重要な知見となる。

図4Fe-Co-Ni三元系におけるFCC相占有率のコンター図: (a) 0 K, (b) 296 K, (c) 973 K, (d) 1096 K

C-4磁化の温度依存性

図5にFe-Co-Ni三元系における磁化の温度依存性を示す。0 K(図5(a))では、全組成域で磁化が確認される。Fe濃度が高い領域でとくに強い磁化を示し、これはFeの大きな磁気モーメントに起因する。いっぽう、Coの増加と比較して、Ni率が増加するとより磁化が大きく減少する傾向が確認される。室温(296 K、図5(b))では、Ni濃度が高い領域で磁化が消失し始める。これはFCC構造におけるNi近傍のTc が室温以下であることに起因する。興味深いことに、Fe50Co50付近の組成では、純Feや純Coよりも強い磁化が保持されている。この現象は実験的にもよく知られており、本計算はこの傾向を良好に再現している。973 K(図5(c))では磁化の消失領域がさらに拡大し、Ni濃度が高い領域だけでなく、Fe濃度が高くCo濃度が低い領域でも磁化が失われる。しかし、Fe50Co50付近およびCo濃度が高い領域では依然として磁化が維持されている。これは図3に示したように、これらの領域でBCC構造およびFCC構造ともにTcが相対的に高いことを反映している。また、図4で示したFe50Co50付近でのBCC相の高い占有率も、この組成域での磁化保持に寄与している。BCC構造は同組成のFCC構造と比較してTcが高いため、BCC相が優勢な組成域では高温でも磁化が維持されやすい。1096 K(図5(d))になると、ほとんどの組成域で磁化が消失する。しかし、Fe濃度が高い一部の領域ではわずかに磁化が残存しており、これは当該領域のBCC相における高いTcに対応している。

図5Fe-Co-Ni三元系における磁化のコンター図:(a) 0 K, (b) 296 K, (c) 973 K, (d) 1096 K

表1に室温における磁化の予測値と実験値の比較を示す。Fe-Co二元系では、Fe30Co70の予測値191.2 emu/gに対して実験値は199.3 emu/g、Fe70Co30の予測値221.9 emu/gに対して実験値は248 emu/gであり、実験値の傾向を良好に再現している。Fe-Ni二元系では、Fe30Ni70の予測値116.5 emu/gに対して実験値は119.8 emu/gと極めて高い精度で一致した。Fe70Ni30では予測値187.0 emu/gに対して実験値は168.7 emu/gであり、この組成域でもおおむね良好な一致を示している。

三元系の組成であるFe50Co40Ni10およびFe57Co29Ni14についても検証を行った。Fe50Co40Ni10では予測値195.6 emu/gに対して実験値は207 emu/g、Fe57Co29Ni14では予測値198.4 emu/gに対して実験値は210 emu/gであり、いずれも高い精度で一致している。このように、第一原理計算による高精度なデータを基盤とし、深層学習モデルで補間することで、訓練データに含まれない任意の組成に対しても実験値を良好に再現する予測が可能となった。本手法は、実験に先立って材料特性を高精度に予測するツールとして有効であることが示された。

表1室温におけるFe-Co-Ni合金の磁化:計算値と実験値の比較

本研究2)では第一原理手法の一種であるKKR-CPA法と深層学習を組み合わせた手法により、Fe-Co-Ni三元系合金のキュリー温度、相安定性、および磁化の系統的な解析を行った。BCC構造ではFeおよびCo濃度が高い領域で高いキュリー温度を示すこと、FCC構造ではCo濃度が高い領域で高いキュリー温度を示すことが明らかとなった。また、Fe50Co50付近では高温においてもBCC相が安定で強い磁化が保持されることを確認し、室温における磁化の計算値は実験値とおおむね良好に一致した。

本研究は、合金の物性値についてKKR-CPA法により網羅的な計算を実施し、深層学習手法によりその結果をデータベース化することへの提案となる。Fe-Co-Ni系に限らずほかの多元系合金への展開が可能である。KKR-CPA法では電気抵抗率や弾性特性など様々な物性値を取得できるため、深層学習による補間と組み合わせることで、多元系合金の統合的な材料データベースの構築が期待される。とくに高エントロピー合金のような広大な組成空間を持つ材料系の探索において、本手法は有効なツールとなりうる。

参考文献

  1. *1)H. Akai: J. Phys. Soc. Jpn., 51 (1982), p.468
  2. *2)K. Kano, K. Koga.: Comput. Mater. Sci., 244 (2024), 113238
  3. *3)V. Chaudhary, et al. J. Alloys Compd. 823, 153817 (2020).
  1. *4)J. M. MacLaren, et al, J. Appl. Phys. 85, 4833 (1999).

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