コベルコ科研・技術ノート

こべるにくす

Vol.34

No.62

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  4. リサイクルアルミへのマテリアルズ・インフォマティクス(MI)適用事例

Technical
Report
A

リサイクルアルミへの
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)適用事例

自動車や産業機器の分野では、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、構造材の軽量化や機械特性向上だけでなく、リサイクル材の適用率向上が強く求められている。とくにアルミニウムは、軽量で比強度も高く加工性や耐食性にも優れることから、幅広く利用されているが、その需要増加に伴い、製品製造時や使用後に発生するスクラップを積極的に再利用することが求められている1)

アルミニウムは新地金の使用比率を下げてスクラップを利用することでCO2の削減効果が大きいことが知られている。しかしながら、スクラップ由来のリサイクルアルミ材は、原料の回収ルートやリサイクル比率に依存して組成が大きく変動し、その結果として組成ばらつきが機械特性(引張強度、0.2%耐力、伸び、硬さ)に影響を及ぼし、またスクラップ材の主成分の配合成分だけでなく、スクラップに由来する微量元素によっても左右されることがある。とくに、ADC12 などのダイカストスクラップは成分の許容範囲が展伸材より広く、 Si や Cu を多く含むため、6000 系アルミ材への添加時にはこれらの元素が鋳塊組織や析出物の状態に影響をおよぼし、特性に予期せぬ変動をもたらす場合がある。従来、このような複雑な組成変動を考慮した材料開発は、試作と評価を繰り返し実施し、その結果を経験的に蓄積することで行われてきた。しかしこの方法では、試作回数の増加や開発期間の長期化を避けることができず、開発スピードの低下や開発コストの増大を招く結果となる。

そこで本報では、少量試作によるデータ取得とマテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics, MI)を組み合わせることで、リサイクルアルミ材の効率的な設計指針を得ることを目的とした。MI は、材料組成・プロセス条件・特性値の関係を機械学習によってモデル化することで、限られたデータから特性予測や最適組成の探索が可能となる手法である2)-4)

当社ではこれまで、ハイスループット実験や第一原理計算を活用したデータ駆動型の材料探索にも取り組んできており、その知見や基盤を有しており、リサイクルアルミ分野における MI 活用の実効性を検証してきた。

本報では、リサイクルアルミ材を模擬した少量試作によるデータ取得方法、MI による予測モデル構築、逆解析による最適組成の探索結果、さらに得られた知見に基づく考察について述べる。そして、リサイクル材開発における新たなアプローチを提示し、今後の材料開発の高度化と効率化に寄与することを目的とする。

A-1実験方法およびマテリアルズ・インフォマティクス解析手法

本章は、本報で採用した材料設計手法の全体像と、材料試作およびMI解析手法について述べる。

図1に本報で用いた少量試作とMIを組み合わせた材料設計フローの概念図を示す。従来の試作主導型材料開発に対し、本手法では少量試作により取得したデータを機械学習モデルに入力し、特性予測および逆解析を通じて効率的に最適組成を探索する点に特徴がある。

図1材料試作と機械学習による材料開発のフロー

1.1 試作方法

リサイクルアルミ材を模擬した少量試作(図2)を実施した。少量試作は、実機製造プロセスの再現性を確保しつつ、投入材料量を最小限に抑えることができるため、スクラップ起因の組成変動が材料特性に与える影響を効率的に把握できる手法である。

本報では、6000系アルミ基材を対象として、スクラップに由来した微量元素を添加し、組成が異なる複数の試料を作製することとした。

当社では試作方法としては、ブック型鋳造(約5kg)、ビレット鋳造(約2kg)、舟形鋳造(約0.5kg)など、少量多品種試作が可能な手法を整備している(図3)が、本検討では、特性評価用サンプルの安定した採取を重視して、ブック型鋳造を用いた。多品種の鋳塊に対して圧延および熱処理条件を変化させながら圧延板を作製し、そこから材料評価用試験分析サンプルを採取した。

図2アルミスクラップ添加を模擬した各種成分配合試作

図3アルミスクラップ添加素材の試作方法例

1.2 特徴量の抽出および試験・分析方法

材料特性の評価としては、引張試験による引張強度、0.2%耐力および伸びの測定に加え、硬さ測定、組織観察(光学顕微鏡および SEM)、成分分析(蛍光X線分析およびICP分析)を実施した。これらの評価結果は、MIによる解析に用いるため、各試料の組成値およびプロセス条件と対応付けて整理し、機械学習モデルの特徴量として入力した。表1に本報の機械学習モデルへ入力した特徴量の例を示す。解析対象の標本数は128 試料であり、各試料について組成値(Fe, Mn, Si, Al, Mg, Ti, Cu, Cr, Zn, Ni)、プロセス条件(温度T, 時間H)および機械特性(0.2%耐力, 引張強度, 伸び)である。

表1特徴量例(組成、プロセス条件、機械特性)

1.3 機械学習手法およびモデル構築条件

つぎに収集したデータを基に機械学習モデルを構築した。材料特性の予測モデルには、線形回帰、ランダムフォレスト(Random Forest, RF)、ガウス過程回帰(Gaussian Process Regression, GPR)、勾配ブースティング(Gradient Boosting, GB)、ニューラルネットワーク(Neural Network, NN)等の手法がある。本報では、RF、GBを採用し、それぞれの手法を用いた特性予測モデルを構築した。モデル精度の評価には、決定係数(coefficient of determination, R2)および二乗平均平方根誤差(Root Mean Squared Error, RMSE)を指標とし、学習データと検証データに対して交差検証を行うことで、汎化性能を評価する枠組みとした。さらに、SHAP(SHapley Additive exPlanations)を用いて、各モデルにおける特徴量重要度解析を行い、材料特性と組成・熱処理条件との関係を解釈可能な形で整理した。

1.4 機械学習モデルによる特性予測精度の検証

本節では、前節で構築した機械学習モデルを用いて、0.2%耐力、引張強度および伸びに対する予測精度を検証した。図4(a), (b)に機械学習モデルによる0.2%耐力、引張強度および伸びの予測値と実測値の比較結果、ならびにSHAP解析を用いた各特性に対する特徴量重要度評価結果を示す。

図4(a)の散布図は横軸に実測値、縦軸に予測値を配置しており、いずれの特性においても予測値は概ね対角線上に分布している。構築した機械学習モデルが材料組成および熱処理条件の影響を適切に学習し、決定係数R2が0.8〜0.9程度の良好な値を示し、組成(Mg, Cu, Si, ほか)に対しても妥当な予測性能を有していることを示している。

これらの結果から非線形モデルであるRFおよびGBは、組成間の相互作用や非線形性の強い特性に対して強みを持ち、リサイクル材のように多元素が複雑に影響する系に対してとくに適している。

図4(a)機械学習モデルによる0.2%耐力、引張強さおよび伸びの予測値と実測値の比較

1.5 SHAP解析による特徴量重要度評価結果

図4(b)に示す SHAP 解析結果から、各材料特性に対する寄与因子の違いが定量的に可視化されている。0.2%耐力に対しては Mgの寄与が最も大きく、固溶強化や析出挙動を通じた耐力向上への影響が示唆される。いっぽう、引張強度に対しては Cu の寄与が相対的に大きく、スクラップに由来する元素が強度特性に与える影響を機械学習モデルにより定量的に捉えていることが分かる。さらに、伸びに対しては Siの寄与が顕著であり、延性低下に対する主要因子として重要であることが示唆される。

これらの結果から、Siの増加は強度向上に寄与するいっぽうで、伸びを低下させる傾向が明確であり、強度と延性のトレードオフ関係を支配する主要因子であることが分かる。また、Mgは強度向上に寄与するが、過剰添加では伸びの低下を引き起こす可能性が示唆された。Cuについては、強度に対して一定の寄与を示すいっぽうで、伸びに対する影響も無視できないことが示された。

図4(b)SHAP解析による特徴量重要度評価結果

1.6 逆解析・多目的最適化による材料設計への応用

本節では、6000系アルミ材にADC12スクラップを添加した実用的な系を対象とし、引張強度と伸びを同時に満足する材料設計を目的とした。6000系アルミ材では、強度と延性がトレードオフの関係にあることが多く、とくにスクラップ由来元素の影響により特性バランスの制御が難しい。そのため、単一特性の最適化ではなく、複数特性を同時に考慮した材料設計が必要であると考えている。

このような課題に対し、本検討では機械学習モデルを用いた逆解析を適用し、引張強度と伸びを同時に満足する組成探索を行った。逆解析には遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)による有望な組成候補を効率的に抽出する枠組みとした。

なお、GAはまず組成成分や熱処理条件をランダムまたは経験的に設定し、複数の候補(個体)からなる初期集団を生成する。各個体は機械学習モデルを用いて引張強度や伸びなどの特性値を予測し、目標特性との一致度(適応度)を評価する。適応度の高い個体を優先的に選択し、交叉(組成や条件の一部を交換)や突然変異(ランダムな値の変更)を行うことで次世代の集団を生成する。さらに、各成分の含有量や熱処理条件などを制約条件として探索空間に組み込み、探索を行う。これにより、複数の特性を同時に最適化することが可能となる。

いっぽうで、リサイクル材ではスクラップ由来によりSi含有量が増加しやすく、過剰な Si は鋳造性の低下や延性の劣化を引き起こすことが知られている。そこで本検討では、材料科学的知見に基づき Si 含有量に上限値を設定し、探索空間を実際の製造に適用可能な範囲に制限した。このように、機械学習による数理的最適化に対して材料科学的制約条件を組み込むことで、机上では最適でも実用上成立しない組成をあらかじめ除外することが可能である。ここでは引張強度330MPa、伸び20%を目標特性として設定した。ただし、機械学習モデルによる特性予測には一定の不確かさが含まれるため、これらの目標値に対して ±5% の許容範囲を設け、その範囲内に入る組成および熱処理条件を材料設計候補として抽出した。このように予測誤差を考慮した目標設定の下で多目的最適化を行うことで、数値的に最適な解に限定するのではなく、実用上成立可能な材料設計候補の探索を可能とした。図5に機械学習モデルを用いた多目的最適化によって得られた材料設計結果および再現試作による検証結果を示す。

おおよそ引張強度330MPa、伸び20%を同時に満足する組成範囲が抽出され、最適候補として提示された組成は、予測上、引張強度329MPa、伸び21%を達成可能と評価された。提示された組成に基づき再現試作を行ったところ、実測値として引張強度306MPa、伸び19%が得られた。予測値と実測値の間にはわずかな差が認められたものの、両特性の傾向は良好に一致を示し、高い再現性を確認した。

図5マテリアルズ・インフォマティクスを用いたリサイクル向けアルミ合金の材料設計および適用事例

本報により、リサイクルアルミ材の少量試作におけるMIの適用可能性と有効性が確認された。とくに、限られたデータ数であっても機械学習手法を適切に選択することと従来の材料科学的知見を合わせることで高い予測精度が得られ、単なる予測にとどまらず、材料設計の初期段階で有効な指針を与えることができた点は重要と考えている。

いっぽうで、予測値と実測値の間に一定の差が見られたことから、鋳造および圧延過程における温度履歴や凝固速度、析出物の形態等、モデルに明示的に含まれていない因子の影響が残っていることが示唆される。これらの要因は、今後のモデル改善に向けて、組織画像データを入力とするマルチモーダルMIや鋳造プロセスの熱流動に凝固解析と連成したプロセス-組織-特性モデルの構築によって改善が期待される。また、少量試作で得られるデータはプロセスばらつきが比較的小さいため、実機スケールへの適用には、より多様なロットを含むデータ拡張が必要となる。

さらに、スクラップ種別(例:ダイカストスクラップ、展伸材スクラップ)による組成の違いを考慮し、転移学習によって異なるデータセット間の学習を効率化することも重要である。これにより、実機製造ラインで発生する組成ばらつきに対しても適応性が高いモデル構築が期待できる。いっぽうで第一原理計算手法の活用があり、原子・分子レベルでの物性値や反応機構の理論的解析に用いられる手法であり、MIモデルの特徴量設計や材料知見の補強に活用できる。

総じて、MIを活用した材料設計は、リサイクル材のような複雑系材料の開発に対して極めて有効であり、試作回数の削減、開発期間の短縮、特性予測の高度化に寄与する。本報で得られた知見は、今後のリサイクルアルミ材開発における基盤技術となり得るものであり、持続可能な材料開発の実現に向けた一助となると考える。

参考文献

  1. *1)日本アルミニウム協会, VISION2050 アルミニウム産業の将来展,(2022).
    https://www.aluminum.or.jp/wp-content/themes/dp-colors/img/VISION2050_main.pdf
  2. *2)コベルコ科研:マテリアルズ・インフォマティクスの活用事例、技術ノート「こべるにくす」No.55(2022年11月)
  3. *3)神戸製鋼所:マテリアルDXに向けたマテリアルズ・インフォマティクスの紹介、KOBELCO TECHNOLOGY REVIEW Vol.73, No.1(2024年8月), pp.96-101
  1. *4)K. Kano, K. Koga, Comput. Mater. Sci. 244, 113211 (2024).
    https://doi.org/10.1016/j.commatsci.2024.113211
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    ※この記事は、技術ノート「こべるにくす」をもとに再構成したものです。技術ノート「こべるにくす」はPDFをご覧下さい。

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