コベルコ科研・技術ノート
こべるにくす
Vol.32
No.58
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Introduction
コベルコ科研の
「⼆次電池評価トータルソリューション」
当社の二次電池評価は電動車両開発が本格化した2008 年頃にスタートし、比較的早い段階から「試作・特性評価」「評価解析」「安全性試験」「CAE」を組み合わせた「トータルソリューション」をコンセプトとした評価提案を進めてきた。本号ではこれらに関する最新技術の報告を特集した。特集号の冒頭にあたり本稿ではまず、二次電池関連の市場動向をまとめた。あわせて各種蓄電池、電気自動車(EV)の開発から普及拡大、全固体電池に代表される次世代革新電池にいたるさまざまな研究開発の場面で、評価・試験・解析の立場からサポートをしてきた当社の「トータルソリューション」の概要を紹介する。
1 二次電池の市場動向
蓄電池は2050 年カーボンニュートラル実現のカギとして、EV、再エネ電力の調整用途等での定置用として、市場拡大が見込まれている(第1図)1)。
液系リチウムイオン電池(液LiB)に対する技術的優位性で初期市場を確保していた日本メーカーは、大規模な政府支援を背景とした海外企業の台頭によりシェアを低下させ、欧州で進められているカーボンフットプリント(*製造・廃棄時の温室効果ガス排出量)、リサイクル規制でも出遅れている。
これを受け政府は蓄電池産業戦略として、足元20 ~ 30GWh/年程度の国内生産の大幅な拡大と競争力の確保を目指し以下の3点の目標を設定している。1)液LiBの国内製造基盤の確立(2030年までに蓄電池・材料の国内製造基盤150GWh/ 年確立)、2)クローバルプレゼンスの確保(2030 年にグローバルで600GWh/ 年の製造基盤確保)、3)次世代電池市場の獲得(2030 年頃の全固体電池本格実用化と技術リーダー地位の維持・確保)。
これらは「国際公約」として位置付けられており、国内基盤拡充のための政策パッケージとして、蓄電池メーカー、部材・素材メーカーへの助成金を実施している。
第1図 蓄電池の世界市場の推移

2 全固体電池を含む革新型電池の動向
全固体電池は次世代電池の代表として、硫化物系、酸化物系、錯体水素化物系、高分子系等、さまざまな電池系の研究開発が進められており、2040 年の約4 兆円の市場規模が予測されている2)。
国内では、自動車OEM、電池メーカー、素材メーカー、大学、国プロ等による継続的な研究開発に加え、グリーンイノベーション基金事業「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」(予算総額1510 億円、2022 ~ 2030 年度)により開発が加速している。
最近では、自動車OEMから、自社開発全固体電池搭載のEV市場投入予定、全固体電池実証ラインの立ち上げ等が発表され、量産化に向けた技術開発が進んでいる。電池メーカー、部材・素材メーカーも民生用電池のリリース、パイロットプラントの建設など研究開発と設備投資が進められており、新規事業として参入を検討する企業からも高い関心が寄せられている。
3 二次電池評価のトータルソリューション
他の技術分野と同様に、電池の研究開発には評価・試験・解析が不可欠である。当社では「試作・特性評価」「評価解析」「安全性試験」「CAE」の各技術による顧客の研究開発支援に加え、これらを組み合わせた「トータルソリューション」により、顧客課題の解決へ向けた提案を実施している。
第2図 電池に関する当社のトータルソリューション

試作・特性評価
解析(物理解析、表面分析、化学分析)
上記の特性のため、電池材料の取り扱いはクローブボックス等の雰囲気制御下で行われ、前処理および測定設備へのトランスファーベッセルの設置とともに、低ダメージでの前処理加工、測定の実施が必要となる。
近年注目されている測定手法に「その場観察」がありin-situ 測定(非破壊状態での測定:電池では主に充放電できる状態)や、オペランド測定(非破壊かつ、系の動作環境下での現象測定)が注目されている。in-situ SEMは前処理に高度な加工技術を要するが、全固体電池評価に有効であり、充放電による形態変化に加え、温度や圧力による影響をリアルタイムに観察することができるため、電極反応の理解を飛躍的に進めることができる。
安全性試験
CAE
全固体電池試作・評価・解析プラットフォーム
今号のこべるにくす・技術ノートは二次電池評価/ 試験/ 解析技術の集大成として、全固体電池試作・評価・解析プラットフォーム、放射光をもちいた最先端の電極反応解析技術、安全性評価のための熱連鎖試験と電池の熱暴走とガス噴出を含む発熱・伝熱の連成解析など、最新の技術開発成果と新規メニューを幅広く紹介している。
低炭素社会のキーとなる蓄電池の研究開発/ 利用を革新的に進めていくお客さまに対して、最先端で多様な評価/ 試験/ 解析技術として、「試作・特性評価」「評価解析」「安全性試験」「CAE」を組み合わせた「トータルソリューション」を提供することで、貢献し続けたいと考えている。
参考文献
- *1) 経済産業省、蓄電池産業戦略検討官民協議会:蓄電池産業戦略(2022年8月31日)
- *2) 富士経済:プレスリリース第22123号(2022年11月22日)